第7回研究発表会

日時:2002年6月8日(土)

場所:東海大学湘南校舎14-104教室

第7回研究発表会プログラム

「図像の規則―Chavin de Huantar遺跡の石彫とCarhuaの織物の比較から 」

竹隈あゆみ(埼玉大学大学院修了生)

「 古典期マヤ支配層の手工業生産と日常生活:グアテマラ共和国アグアテカ遺跡出土の石器分析を通じて」

青山和夫(茨城大学)

「 エルサルバドル考古学プロジェクトによるチャルチュアパ遺跡カサブランカ地区の発掘調査(CHAL. C. B. 2001)」

伊藤伸幸(名古屋大学)、南博史(京都化博物館)、

柴田潮音(エルサルバドル国立芸術文化審議会文化遺産局)

「クントゥル・ワシ遺跡の発掘」

加藤泰建(埼玉大学)

「アンデス形成期神殿クントゥル・ワシにおける神殿活動」

坂井正人(山形大学)

「ペルー北高地の形成期遺跡より出土した人骨の食性解析」

関雄二(国立民族学博物館)

米田穣(独立行政法人国立環境研究所)

「クントゥル・ワシ遺跡の修復と復元作業」

大貫良夫(野外民族博物館リトルワールド)

 

第7回研究発表会発表要旨

1.図像の規則―Chavin de Huantar遺跡の石彫とCarhuaの織物の比較から

竹隈あゆみ(埼玉大学大学院修了生)

 南米、中央アンデスの形成期に盛行し始める図像を対象に、従来の研究とは異なる視点から分析を行うことで、新たな情報を得ようと模索した。
 従来の形成期の図像研究においては、図像は宗教やインターアクションを直接示すものとして捉えられてきた。 しかし、現代の社会を対象とした物質文化研究から、このような物質文化(図像)と人間行為(宗教など)との間には決定的な関係はなく、それぞれの社会の概念構造や社会的状況の中で位置付けられていることが示されている。 そこで、図像を、宗教やインターアクションの証拠として捉える前に、図像そのものを分析し、どのような概念構造や社会的状況と関係付けられているかを考察しなければならない。 そこで今回、図像そのものの関係性、つまりモチーフや要素を位置付けている規則を求める。そして、この分析によって可能になる考察の射程について論じてみた。


2.古典期マヤ支配層の手工業生産と日常生活:グアテマラ共和国アグアテカ 遺跡出土の石器分析を通じて

青山和夫(茨城大学)

 本研究の目的は、グアテマラ共和国アグアテカ遺跡から出土した10,000点以上の石器の分析を通じて、古典期マヤ支配層の手工業生産と日常生活の一側面を復元することである。
 これらの石器は、西暦800年頃に敵襲を受けて王や貴族が急速に放棄した遺跡中心部の住居跡の全面発掘調査によって床面直上から収集された大量の一次堆積遺物の一部である。 当時の日常生活を生き生きと伝えるこのような豊富な考古資料はマヤ低地では他に類例がなく、グアテマラ、日本、アメリカ、カナダ、スイス、ドイツの国際的なアグアテカ考古学プロジェクトの調査団員が、さまざまな遺物の多種多様な考古学データを互いに検証しながら学際的な研究を行うことによって、古典期マヤ人の日常生活の研究を進めている。 高倍率の金属顕微鏡を用いた石器の使用痕分析をはじめとする石器の詳細な分析によって、骨・貝・木・皮製の手工業品やその他の石器の製作、石碑の彫刻、戦争、調理をはじめとする古典期マヤ支配層が行った諸活動が実証的に復元された。 とりわけ発掘された全ての支配層の住居跡から熟練した奢侈品の半専業生産の証拠が見つかり、支配層が奢侈品の生産を広く行なっていたことが明らかになった。 一部の古典期マヤ支配層は、書記であったと同時に工芸家や戦士でもあったのであり、複数の社会的役割を担っていたのである。
 

3.エルサルバドル考古学プロジェクトによるチャルチュアパ遺跡カサブランカ 地区の発掘調査(CHAL. C. B. 2001)

伊藤伸幸(名古屋大学)、南博史(京都文化博物館)、     

柴田潮音(エルサル バドル国立芸術文化審議会文化遺産局)

 新大陸文化研究所(代表・伊藤伸幸名古屋大学助手)では、前年度に引き続き2001年9〜10月(第3次調査)、および2002年2〜3月(第4次調査)にチャルチュアパ遺跡カサブランカ地区において発掘調査を行った。 発掘区は複数の土製構造物がのる大規模な基壇の縁辺部(4N区)、約150u。調査の目的は、当地区における人々の活動がいつはじまり、どのような文化内容を持っていたかを明らかにするとともに、大規模な基壇が造成されていく過程を調査することにある。
 現在、イロパンゴ火山灰が堆積する縁辺部斜壁の下層を順次掘り下げており、今年度はそれまでの調査で予想していた地山層の上面における最終確認調査を行った。 その結果、この土層の中から埋設された土器群が出土し、上面に構造物を推定させるような石列・版築遺構が確認され、この土層が造成された可能性を示した。 時期的には先古典期後期から中期にかかる可能性が高く、この盛土の規模と性格についての調査が今後の課題である。


4.クントゥル・ワシ遺跡の発掘

加藤泰建(埼玉大学)

 クントゥル・ワシはペルー北部山地、アンデス山脈の西側斜面部に位置する形成期中期・後期(前1100-前200年)の大神殿遺跡である。 これまでに総計11シーズンの発掘調査を実施しており、持続的な一連の計画のもとに行われた遺跡調査としては、少なくともアンデス形成期の遺跡の場合には他に例がなく、この間の調査で蓄積された学術データは膨大な量にのぼっている。 本報告では、クントゥル・ワシ遺跡の学術調査がどのような経緯で実施され、現時点では何がどの程度明らかになったのかについて触れ、今後、クントゥル・ワシの調査研究がどのように展開していくのかを述べる。
 


5.アンデス形成期神殿クントゥル・ワシにおける神殿活動

坂井正人(山形大学)

 本報告ではクントゥル・ワシ神殿における神殿活動の実態について考察する。 これまで神殿更新およびそれに伴う埋葬については検討が重ねられてきたが、それ以外の神殿活動については議論が不十分であった。 本報告ではクントゥル・ワシ神殿から出土した遺物を分析することによって、この問題に取り組む。 具体的には石器と骨角器のタイプ、出土地点、時期を検討することによって、神殿内部に道具や織物を生産する工房が存在し、神殿が生産活動の場であったことを明らかにする。 また石器の石材分析にもとづき、外部との交流のあり方がどのように変化したのかについて考察する。 最後にクントゥル・ワシ神殿から出土した獣骨の分析結果にもとづき、動物と神殿活動の関係について議論する。


6.ペルー北高地の形成期遺跡より出土した人骨の食性解析

関雄二(国立民族学博物館)、米田穣(独立行政法人国立環境研究所)

 本発表では、遺跡から発掘された人骨が持っている「同位体比」という情報を読み解くことで、人々が生前に食べていた食物の内容を復元することを試みる。 従来行われてきた食性の復元が、動植物遺残など人間が摂取せずに捨てたもの、あるいは土器など食物と関連した道具類の分析を通して間接的な手法に基づくものであったのに対して、今回採用した手法は、食物を摂取した人間そのものの骨に残されたコラーゲンを対象としている点で、より直接的な食性復元が可能といえよう。
 対象試料は、東京大学古代アンデス文明調査団が、ここ20年来調査を続けているペルー北高地カハマルカ地方の形成期諸遺跡(紀元前1500〜紀元前後)から出土した人骨である。 分析の結果、同じ形成期でも、後期から末期にかけて、食性に変化が生じていることがわかった。具体的には、アンデス地帯で食糧や酒の原料として後に重要となるトウモロコシの生産がこの頃に導入された可能性が指摘できる。


7.クントゥル・ワシ遺跡の修復と復元作業

大貫良夫(野外民族博物館リトルワールド)

 クントゥル・ワシ遺跡では2000年より3年計画で遺跡の修復保存事業を行っている。日本のユネスコ信託基金の交付を受けて実施するものである。 1988年以来10回以上の発掘を重ねてきて、その成果を博物館の遺物だけでなく、遺跡自体である程度提示したい、またそれが遺跡に観光価値などを付加することにより、地元参加の形での遺跡保存にもつながり、あわせて幾分なりとも地元社会の振興になればとの期待もしている。 作業の過程は会誌に書いたので、発表ではスライドによって作業の概略を紹介したい。